12章  ダイアトニックに準じるノンダイアトニックコード (メジャーキー編)
 10章11章と、理論の範囲内で使用可能なノンダイアトニック コードを見てきました。これだけでもコード進行の色彩感はず いぶんと豊かになったと思います。  ここでは、今まで紹介したセカンダリードミナント関係、S DMおよびその代理コードの特殊な用例、加えてそれら以外で 使用可能なノンダイアトニック代理コードをまとめて解説しま す。これらはコード構成がダイアトニックに近いため、ダイア トニックコードの代理として常用されるものです。つまり、大 した考えなしに使っても「音が外れる」危険性が少なく、あた かもダイアトニックであるかのように使えるコードたちです。 それらを使った進行例も載せますので、どんどん活用してくだ さい。  今回はひとまず、奥の深いメジャーキーの話をしますが、マ イナーキー編はまたいつか(マイナーはあまり多くないのです)。  では、度数順に見ていくことにしましょう。
■ bII  SDMの代理コード。多くはM7の付加音を伴い、V7→bIIM7 のようにドミナントV7からの偽終止として使われますが、ここ からIへ落ち着くパターンと、そのまま終わってしまうパター ンがあります。bII上に乗るメロディはスケールの1、4、5度 (ド、ファ、ソ)。特に5度を使うとルートとメロディの間に 絶妙な増4度音程が形成され、この落ち着かなさが何とも言え ぬ、後味が良いような悪いような、「哀愁の」というニュアン スで響いてきます。このパターンはメジャー/マイナーキーを 問わずに使うことができ、曲のエンディングによく見られます。 僕が溺愛するコード進行その1。 ● 音で確認=非対応メニューです
■ IIm-5  SDMの代理コード。同主短調からの借用。IIm-5→V7(b9) →Iなどと使うと、一瞬同主短調に移ったかのような錯覚を起こ させますが、トニックIへの解決によってメジャーに引き戻さ れ、聞き手の予想を裏切ります。スティーヴィー・ワンダーの 得意技。 ● 音で確認=非対応メニューです
■ bIII  ドミナントV7の代理コード。同主短調からの借用。トニック Iから直接つなげて、マイナー感を出します。SDMとはまた 別のマイナー感です。また、IIIm→bIII→IImのような使用は ルートの半音下降を形成します。このとき、メロディはスケー ルの2度または5度(レ、ソ)をキープするとおいしいです。
■ bIIIdim  上のパターンIIIm→bIII→IImのうち、bIIIをディミニッシュ 化する場合も多い。こうすることで、IIImからIImへの流れは よりスムーズになります。おすすめ。溺愛コード進行その2。 ● bIIIと聴き比べ=非対応メニューです
■ #IVm-5  サブドミナントIVの代理コード。#IVm7-5の形では、コード 構成はIVM7と比べてルートが違うだけ。おとなしい使用法は、 #VIm-5→VII7→IIImのように、ダイアトニックコードIIImへと ツー・ファイブでアプローチするもの。やや物騒なのが、I→ #IVm-5の繰り返し。ルートの増4度の動きにビクっとします。 おかしなもので、マイナーを示唆する構成音がないにも関わら ず、マイナー方面へ一気に盛り上げる感じを作ります。これ自 体の持つ、強力なコードサウンドのタマモノなわけですね。  また、#IVm-5→IV(orIVm)→IIIm→bIIIdim→IIm→V7の半音 下降パターンは、メジャーキー超必殺コード進行のひとつ。溺 愛その3。一度覚えるとハマりますよ。ぜひ使ってみてくださ い。 ● 音で確認=非対応メニューです
■ V7sus4  V7のM3rdを半音上げたもの。構成音を調べればわかる通り、 ノンダイアトニックコードではないんですがね。V7sus4→Iの 4度進行は、トライトーンの解決を経ないドミナントモーショ ンと呼べるもので、穏やかな進行感がおしゃれ、との呼び声が 高いです。ユーミンの曲に多発することから、ユーミンコード などと呼ばれますが、ホントはクラシック方面では100年前から 使われているんです。曲調によっては、V7→Iよりもこちらのサ ウンドを使う方が収まりがいいでしょう。  なお、このコードは分数コードにも関わってくるため、後ほ ど再び説明することになります。
■ Vm  Vm→I7→IVとダイアトニックコードIVへのツー・ファイブ・ ワンを形成。最近多い用例としては、ドミナントV7の代理。
■ bVI  SDMの代理コード。M7thを伴うとトニックとの共通音も増 え、トニック代理と見ることもできます。I→bVI、I→bVIM7 と、M7thがつくだけで、サウンドのイメージはガラっと変わっ てきます。別名、松本さんコード(たびたび引き合いに出して すいません)。 ● 音で確認=非対応メニューです
■ bVI7  SDMの代理コード。V7→bVI7の偽終止として使う場合、ト ニックIの代理と見なされることもあります。この進行はm2nd 上のキーへの転調にも使われます。
■ VI  V7→VImはトニック代理による偽終止ですが、このVImをメジ ャーコード化します。もしVI7の形であれば、サブドミナント IImのセカンダリードミナントに過ぎませんが、VIM7の形で使 う例も多く、ほとんど(VIをトニックとするキーへ)転調した かと思うような鮮烈な印象を残し、かなり聞き手の意表をつく ことができます。V7-5(9,13)と似た構成であるため、おそらく ドミナント代理なのでしょうが、トニック代理とも取れるあい まいな機能のコードです。 ● IIm→V7→VImとIIm→V7→VIM7=非対応メニューです  このコードをトニックの代わりに使うとなると、上に乗るメ ロディといったらスケールのM3rd、M7th(ミとシ)しかありま せん。これを踏まえて使わないとひどいことになったり、転調 と見なされるので、注意が必要です。この進行の後は、 1) そこから4度でIImに進む 2) VImへ戻る 3) トニックへ帰る  ぐらいしか手はないです(そのまま転調するなら別)。THE SQUAREの名曲 "OMENS OF LOVE" で使われていることで有名。 ほか、多くの曲で見られますが、聴けばだいたい一発で判別で きます。「あのす」でも使いました。 譜例:VIの尻ぬぐい    ● 音で確認=非対応メニューです
■ bVII  サブドミナントIVの代理コード。bVIIM7として使われること が多いです。I→bVII→bVI→V7の進行はよく見かけます。
■ bVII7  SDMの代理コード。トニックI→bVII7(13)は、曲のエン ディングによく使われます。 ● 音で確認=非対応メニューです
 上で紹介したノンダイアトニック代理コードを、機能別にま とめるとこうなります。これで整理してみてください。 ┏━━━━━━━━━━┯━━━━━━┓ ┃ │ ┃ ┃トニック代理 │ *VI(M7) ┃ ┃ │ *bVI(M7) ┃ ┃ │ *bVI7 ┃ ┃ │ ┃ ┠──────────┼──────┨ ┃ │ ┃ ┃ │ bIII(M7) ┃ ┃ドミナント代理 │ Vm(7) ┃ ┃ │ V7sus4 ┃ ┃ │ *VI(M7) ┃ ┃ │ ┃ ┠──────────┼──────┨ ┃ │ ┃ ┃サブドミナント代理 │ #IVm(7)-5 ┃ ┃ │ bVII(M7) ┃ ┃ │ ┃ ┠──────────┼──────┨ ┃ │ ┃ ┃ │ bII(M7) ┃ ┃SDM代理 │ IIm(7)-5 ┃ ┃ │ bVI(M7) ┃ ┃ │ bVI7 ┃ ┃ │ bVII7 ┃ ┃ │ ┃ ┠──────────┼──────┨ ┃ │ ┃ ┃それ以外 │ bIIIdim ┃ ┃ (代理関係にない) │ VI(M7) ┃ ┃ │ ┃ ┗━━━━━━━━━━┷━━━━━━┛ *:条件つきだったり、用法が特殊なもの  と、まあ思い付くのはこんなもんでしょうか。以上は、ルー トが度数と一致するコードの紹介です。つまり転回形やon Bass などの分数コード(D7/F#やG/Fなど、ボトム=ベースがルート と一致しないコード)は含まれていません。分数コードまで範 囲を広げればまだまだ多くのバリエーションやコードパターン が作れますが、これはまた機会を改めて説明することにします。
(EOF)